column

余剰作物の香り

文=今井菜月 写真=高野ユリカ

reframing
project

 花王のプロダクトは、原料の調達から廃棄までの全てのプロセスで環境負荷低減が考えられています。しかし、配慮をされていても原料やプロダクトの運搬はトラック等を使用し、洗剤が混じった排水は川や海に流れており、環境への負荷はゼロになっていません。真の『きれい』を考えたプロダクトを作ることができているのだろうか。ワークショップ(reframing)は、第一回目からそのような問いを私に与えてくれました。
 

 心に生じたモヤモヤは、ワークショップでボートツアーに参加してはっきりと感じられるようになりました。川から見るいつもの町や景色は、目線を変えただけでこれまで気づかなかった“人間とのかかわり”を教えてくれました。川がごみの輸送路となっていること、豪雨の日には下水処理がなされないまま汚染水が流されていること、川は常に天候と人間の生活に左右され人間の都合の良いように人間と近づいたり遠のいたりしながら時代と共に変化していること。特に、川の汚染とともに川側に窓を作らない建物が設計されていたことは印象的でした。もしかしたら、人間と川とのかかわりを知ろうとしていなかっただけではなく、意図的に気づかないようにされていたのではないか。このままでは、折角生じ始めたモヤモヤも失ってしまうかもしれない、一線を引くことをやめたい、と考えが少しずつ変わっていきました。
 

 そんなとき、竹村真一先生のSPHERE(注1)を用いた地球視点のお話を伺いました。これまでになかった新しさと共感できるお話であり、特に自然と人間に敷居を設けない「人間界に閉じない」という言葉が非常に印象的でした。

竹村先生の講義は藝大で行われた。

注1
SPHERE
地球を一つの生き物としてみることで、身の回りに起きている天候や環境の変化の因果関係を理解することができる地球儀。

 また、第三回のワークショップでは東京藝術大学の学生とシャレット(注2)を行い、人間と自然にとって『きれい』な生活を想像しました。例えばそこで生まれた「コンポストトイレ」というアイデアは、自然に沿った素晴らしい仕組みですが、少々面倒なことでもあります。そのため、日々の生活を楽しめるような工夫がもう一つあると、文化として根付いてくれるかもしれないと想像しました。
 ワークショップで学んだ気づきや考えをもとに、花王のプロダクトを作るものとして、真の『きれい』を提案したい。もっと自然に溶け込んでいくような生活を送りたい、と考えるようになりました。とはいえ、私たちも一生活者。無理があったり強いられては続かない。生活を楽しみながらできることがいい。
 

果物の皮からフレグランスウォーターを抽出した。

注2
シャレット
設定条件の下、短時間で議論を交わし、建築(街)を構想すること。
 私は、花王でプロダクトの香りを創っています。香りは気持ちに変化を与え、窮屈な生活にゆとりを与えてくれる存在です。例えば、バスタオルの穏やかな香りは、自然と心を穏やかにしてくれるでしょう。天然香料は果物や木々、ハーブなどから抽出されるため、それらの収穫量で価格が変動しやすいものでもあります。つまり、香料は、気持ちにゆとりを与えながら、環境変化を伝えるツールともなりえるのではないでしょうか。真の『きれい』を考えた生活を文化にするために、香りは最適要素となるかもしれません。
 

 そこで、生まれたアイデアが“余剰作物で作成した香り”です。近年、気候変動の影響から、作物が規格外になったり作りすぎてしまったりすると耳にします。自然の変化のなかで生まれた余剰作物を、プロダクトの香りとしてみる。“変化する自然”と“生活”を香りでつなげることで、自然との境界を取り除き、一体化させる。実現できれば、日々の生活において自然の変化を感じ、変化を楽しみ、人間界にとどまらない『きれい』を考え続けることができるでしょう。香料抽出による環境破壊は減少するかもしれません。何より、香りから始まる人間界に閉じない生活は、なんだかわくわくしませんか。

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